事業主の負担が増えない珍しい制度。10月1日から始まる「保険料調整制度」の要件
2026年10月1日から「保険料調整制度」が始まります。
パートの社会保険料を事業主が一時的に多めに負担して本人の負担を軽くする制度で、肩代わりした分は後で納める保険料から全額控除されるため、事業主の最終的な負担は増えません。
損する話ばかりの制度改正のなかで、珍しく誰も損をしない設計になっています。ただし対象になる日付の線引きがあります。
仕組み
パート・アルバイトが社会保険に入ると本人の手取りが減ります。それを避けて働く時間を抑える人が出る。この就業調整を減らすために作られた制度です。
本来は労使折半(50:50)の保険料について、事業主が折半を超えて多めに負担し、その分従業員の負担を減らします。
肩代わりした分は返ってきます。日本年金機構の資料にはこう書かれています。
事業主には軽減分を一時的に負担いただきますが、一定期間経過後にお支払いいただく保険料からその分を全額控除するため、最終的に事業主が納付する保険料は増えません。
従業員側も「将来受け取る年金額にも影響はありません」とされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開始日 | 2026年10月1日 |
| 期間 | 通算3年間(36か月) |
| 対象の保険 | 健康保険・厚生年金保険 |
| 事業主の最終負担 | 増えない(一時的に立替 → 後で全額控除) |
| 従業員の将来の年金額 | 影響なし |
根拠条文は、令和7年法律第74号の附則第22条(厚生年金保険料)と附則第24条(健康保険料)、負担割合は附則別表第二・第三です。厚生年金保険法第82条第1項・健康保険法第161条第1項が定める労使折半の特例として組まれています。
なお「一定期間経過後に控除」の「一定期間」が具体的に何か月後なのかは、確認した公表資料には書かれていませんでした。
いくら軽くなるのか
| 月収(報酬月額) | 標準報酬月額 | 1〜2年目 従業員:事業主 | 3年目 従業員:事業主 |
|---|---|---|---|
| 9.3万円未満 | 88,000円以下 | 25:75 | 37.5:62.5 |
| 9.3万〜10.1万円未満 | 98,000円 | 30:70 | 40:60 |
| 10.1万〜10.7万円未満 | 104,000円 | 36:64 | 43:57 |
| 10.7万〜11.4万円未満 | 110,000円 | 41:59 | 45.5:54.5 |
| 11.4万〜12.2万円未満 | 118,000円 | 45:55 | 47.5:52.5 |
| 12.2万〜13万円未満 | 126,000円 | 48:52 | 49:51 |
| 13万円以上 | 134,000円〜 | 対象外(50:50) | 対象外(50:50) |
月収が低い人ほど軽減幅が大きく、3年目は軽減が半分に縮みます。段階的に通常の折半へ戻していく設計です。
対象になる事業所
まず「適用事業所」であることが前提です
制度を使う前に、そもそも自社が厚生年金保険の適用事業所である必要があります。
| 区分 | 適用事業所か |
|---|---|
| 法人の事業所(事業主1人だけの場合を含む) | 強制適用 |
| 常時5人以上を使用する個人事業所(農林漁業・サービス業等の非適用業種を除く) | 強制適用 |
| 上記に当たらない個人事業所 | 任意適用の認可を受けない限り、適用事業所にならない |
適用事業所でなければ、次に説明する任意特定適用事業所にもなれません。
従業員50人以下でも、自ら手を挙げれば使えます
厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等でなければ、短時間労働者を社会保険に加入させる義務はありません。そこで、労使合意で自ら「任意特定適用事業所」になると、この制度が使えるようになります。
従業員数の数え方に決まりがあります。
- カウントするのはフルタイムおよびフルタイムの4分の3以上で働く人(=厚生年金保険の被保険者数)
- 短時間労働者本人は入りません
- 法人の場合は同一法人格に属するすべての適用事業所の総数
- 個人事業所の場合は適用事業所単位
日付の線引き
日本年金機構のページにこう書かれています。
令和8年10月1日以降、任意特定適用事業所になると、保険料調整制度の対象となります。なお、令和8年9月30日以前に任意特定適用事業所となった事業所は、対象外です。
| このルートの対象か | |
|---|---|
| 2026年9月30日以前に任意特定適用事業所になった事業所 | 対象外 |
| 2026年10月1日以降に任意特定適用事業所になった事業所 | 対象 |
ただし、機構のページには「令和9年10月1日以降、順次対象となる事業所」という別の記載もあります。9月中に任意特定適用事業所になった事業所がそちらで対象になるかどうかは、公表資料からは読み取れませんでした。
なお、いつ「なった」ことになるかにも決まりがあります。機構の手続きページには「特定適用事業所該当年月日および短時間労働者の資格取得年月日は、申し出受理日(受付日)となります」とあります。書類を出した日ではなく、受け付けられた日です。
対象になる従業員
現在の加入条件は4つです。
| # | 条件 |
|---|---|
| ① | 所定内賃金が月額8.8万円以上(いわゆる年収106万円の壁) |
| ② | 週の所定労働時間が20時間以上(フルタイムの4分の3未満) |
| ③ | 企業規模要件 |
| ④ | 学生ではない |
このうち①は2026年10月に撤廃予定とされています。撤廃されれば、実質的に②③④で判定されることになります。ただし撤廃の施行期日を定める政令は、この記事を書いた時点で確認できていません(詳しくは別記事にまとめました)。
そのうえで、保険料調整制度の対象になるのは次の3つをすべて満たす人です。
| # | 条件 |
|---|---|
| 1 | 週の所定労働時間が20時間以上(フルタイムの4分の3未満) |
| 2 | 月収13万円未満(標準報酬月額が12.6万円以下) |
| 3 | 学生ではない |
「20時間以上、かつ4分の3未満」という挟み撃ちである点に注意してください。4分の3以上働く人は短時間労働者ではなく通常の被保険者になるため、この制度の対象外です。
2つの「賃金」を混同しないでください
判定に使う金額が2種類あって、中身が違います。
| どの判定か | 使う金額 | 含むもの |
|---|---|---|
| 8.8万円(加入の入口) | 所定内賃金 | 割増賃金・精皆勤手当・通勤手当・家族手当・賞与を除く |
| 13万円(保険料調整の対象) | 報酬月額 → 標準報酬月額 | 時間外手当・精皆勤手当・通勤手当等も含む |
通勤手当や残業代を入れるかどうかが逆です。基本の時給計算だけで「12万円台だから大丈夫」と判断すると、手当を足した結果13万円以上になって対象から外れることがあります。
間違えやすいところ
「3年間」は従業員ごとではありません
条文(附則第22条第7項)は「申出があった日の属する月から通算して三十六月間」と定めています。起算点は保険料調整の申出があった日の属する月で、従業員が入れ替わっても時計はリセットされません。
1〜2年目と3年目の区切りも、別表が「申出があった日の属する月から通算して二年を経過した月の前月まで」と定めています。
なお、対象者がいなくなって保険料調整額が零になった月は適用が停止され、その月は36か月に通算されません。
申出の期限は「2年以内」より1か月手前です
チラシは「2年以内」と書いていますが、条文(附則第22条第1項)は「基準日から起算して二年を経過した日が属する月の前月まで」と定めています。
基準日が2026年10月1日なら、2年を経過した日は2028年10月1日、その属する月は2028年10月、その前月=2028年9月末までが期限です。2028年10月1日は間に合いません。
手続きは2段階です
- 任意特定適用事業所になる申出
- 保険料調整制度の申出
1回で終わりではありません。チラシは電子申請も可能としていますが、機構の手続きページの提出方法は「郵送、窓口持参」のみで電子申請の記載がありません。どちらが現状かは確認できませんでした。
健康保険組合に加入している場合、提出方法は各組合に確認してください。
やること
① 自社が適用事業所かを確かめる
法人なら社長1人でも強制適用です。個人事業所は常時5人以上(非適用業種を除く)が基準になります。
② 対象になりそうな人がいるか見る
週20時間以上でフルタイムの4分の3未満、月収13万円未満、学生でない。この3つを全部満たす人です。
③ 日付を確認する
2026年10月1日以降に任意特定適用事業所になった事業所が対象です。受理日が基準になります。
④ 原文を確認する
まとめ
- 2026年10月1日開始。通算3年間(36か月)
- 事業主の最終負担は増えない(立て替えた分は後で全額控除)
- 軽減は月収が低いほど大きく、3年目は半分に縮む
- 対象は2026年10月1日以降に任意特定適用事業所になった事業所
- 従業員は週20時間以上・月収13万円未満・学生でないの3つを全部満たす人
- 8.8万円と13万円で「賃金」の中身が違う(通勤手当・残業代を含むかが逆)
- 36か月の起算は申出があった日の属する月。従業員ごとではない
- 申出期限は条文上「2年を経過した日が属する月の前月まで」