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「106万円の壁」は10月1日に撤廃“予定”です。施行日を決める政令はまだ出ていません

2026-09-06
社会保険適用拡大106万円の壁経営者

短時間労働者が社会保険に入る条件のひとつ、所定内賃金が月額8.8万円以上(いわゆる年収106万円の壁)。これが2026年10月に撤廃予定とされています。

ただし、記事を書くにあたって一次資料を追ったところ、施行期日を定める政令が確認できませんでした。

「撤廃されます」と言い切っている記事は多いのですが、まだ「予定」です。何が決まっていて何が決まっていないかを分けて書きます。

決まっていること

根拠法は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(令和7年法律第74号、2025年6月20日公布)です。

この法律の施行日は原則として令和8年4月1日と法律本体に書かれており、規定ごとに施行日が振り分けられています。

そのうち賃金要件の撤廃にあたる部分だけ(附則第1条第9号。厚生年金保険法第12条第5号の改正と附則第4条の6の新設)が、こう定められています。

公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日

つまり日付が政令に委ねられていて、その政令がまだ確認できない、というのが現在地です。

公的な情報源が、そろって「予定」と書いています

情報源書きぶり
厚生労働省 リーフレット「賃金要件(いわゆる年収106万円の壁)は令和8(2026)年10月に撤廃予定
日本年金機構「適用の拡大」(更新日 2026年4月17日)8.8万円を現行要件として掲載しつつ、注記で「この要件は令和8年10月に撤廃予定です

どちらも「予定」です。そして、施行期日を定める政令を確認しようと厚生労働省の「新着の法令」年金局欄を令和8年6月12日掲載分まで遡って見ましたが、施行期日を定める政令も「厚生年金保険法施行令等の一部を改正する政令」も見当たりませんでした。

パブリックコメント資料には「公布日:令和8年7月上旬(予定)」と書かれていましたが、その通りには進んでいないようです。

この記事の執筆時点(2026年9月6日)で確認できたのはここまでです。確定情報は官報および厚生労働省の「新着の法令」でご確認ください。

撤廃されても「週20時間だけ」にはなりません

ここは誤解が広がりやすいところです。撤廃されるのは賃金要件だけで、ほかの条件は残ります。

#条件撤廃後
所定内賃金が月額8.8万円以上撤廃予定
週の所定労働時間が20時間以上残る
勤務先が特定適用事業所等(厚生年金保険の被保険者数51人以上)であること残る(2035年10月に撤廃予定)
学生ではないこと残る

賃金という関門はなくなりますが、判定は②③④で続きます。特に③の企業規模要件が2035年10月まで残るので、従業員が数人の事業所は、いまのところ直接の対象にはなりません。

例外があります

厚生労働省のリーフレットの注記です。

最低賃金法では一定の場合に最低賃金の減額を許可する特例があり、この特例の対象となる短時間労働者のうち、月額賃金8.8万円未満である方は、原則社会保険に加入しないこととなります(申出により任意で加入することは可能。)。

撤廃の理由は、全都道府県の令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超え、週20時間働けば自動的に月8.8万円以上になるためだと説明されています。その前提が当てはまらない人には例外を置いた、という構造です。

混同しやすい2つの「賃金」

判定に使う金額が2種類あって、含めるものが逆です。

どの判定か使う金額含むもの
8.8万円(加入の入口)所定内賃金割増賃金・精皆勤手当・通勤手当・家族手当・賞与を除く
保険料の計算報酬月額 → 標準報酬月額時間外手当・精皆勤手当・通勤手当等も含む

除外される賃金は日本年金機構の該当ページに列挙されています。そのリストと給与明細を突き合わせてください。

「被保険者数51人以上」の数え方

企業規模要件の判定には決まりがあります。

法人は支店・店舗を合算します。店舗ごとに数えて「うちは51人未満」と判断すると間違えます。

この先のスケジュール

時期何が起きるか
2026年10月賃金要件(月8.8万円)の撤廃予定
2029年10月個人事業所の非適用業種の解消(常時5人以上を使用する事業所)
2035年10月企業規模要件(51人以上)の撤廃

2035年10月に撤廃されるのは企業規模要件です。前提として「適用事業所」であることは引き続き必要で、常時5人未満の個人事業所はその後も強制適用にはならず、労使の合意による任意加入(任意包括適用)の道があるにとどまります。

一方、法人であれば社長1人でも適用事業所なので、短時間労働者を雇えば2035年10月以降は規模を問わず適用拡大の対象になります。

間違えやすいところ

「撤廃されました」と書いてある記事を信じる

まだ予定です。施行期日を定める政令が公布されて初めて確定します。情報源の更新日を必ず見てください。

撤廃されたら週20時間で全員加入になると思う

企業規模要件(51人以上)が残ります。従業員が数人の事業所は、自ら任意特定適用事業所になる場合を除き、直接の対象にはなりません。

8.8万円の判定に通勤手当を入れる

入れません。割増賃金・精皆勤手当・通勤手当・家族手当・賞与は除きます。保険料の計算に使う報酬月額とは別物です。

店舗ごとに51人を数える

法人は合算です。同一の法人番号に属するすべての適用事業所の被保険者数を足します。

やること

① 情報源の更新日と「予定」の文字を見る

まず官報および厚生労働省「新着の法令」の年金局欄で、施行期日を定める政令が公布されたかを見てください。e-Gov法令検索は反映に時間差があるため、補助的な確認にとどめるのが安全です。

② 自社の被保険者数を数える

法人なら全事業所を合算、個人事業所なら事業所ごと。短時間労働者は含めません。

③ 原文を確認する

まとめ

この記事は制度の一般的な説明です。個別の判断については税理士・社会保険労務士など有資格の専門家にご相談ください。