手形の「最終振出期限」は9月30日ではないかもしれません。923機関を数えて分かったこと
取引先から「今回は手形で」と言われたら、いま何が起きるか。
多くの金融機関が2026年9月30日を紙の手形・小切手の「最終振出期限」に設定していて、その日を過ぎて振り出された手形は、原則としてその当座勘定から支払われません。
ただしこの「9月30日」は全国一律ではありません。全国銀行協会の一覧を実際に開いて数えたところ、そうではない金融機関が確かにありました。
別々に見える3つのニュースは、同じ1本の話
「手形が廃止される」「下請法が変わった」「独禁法に新しい告示ができた」。バラバラに報じられますが、支払サイトの短縮と現金払いの促進という同じ目的で動いている一続きの話です。公正取引委員会と中小企業庁が2026年9月1日付で出した要請文書も、この3つを1つの文書の中で並べて説明しています。
| 日付 | 何が起きるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 2026年1月1日 | 下請法が取適法に。代金支払いで手形を交付することが禁止 | 取適法第5条第1項第2号 |
| 2026年9月30日 | 多くの金融機関が設定した紙の手形・小切手の最終振出期限 | 全銀協の一覧 |
| 2027年3月31日 | 電子交換所における手形・小切手の交換が廃止 | 全銀協 2026年6月18日公表 |
| 2027年4月1日 | 独占禁止法上の支払告示が施行 | 令和8年公正取引委員会告示第3号 |
法律が手形払いを禁じ、銀行が紙をやめ、告示が法律の網の外側を塞ぐ。法律・銀行実務・告示が同じ方向に揃っています。
なお、手形・小切手以外の証券(定額小為替証書、株式配当金領収証等)の交換廃止は2029年6月29日です。混同しないでください。
全銀協の一覧を数えてみました
「9月30日が最終振出期限」は、金融機関ごとに各行が決めている期限であって、法律で決まった全国共通の日ではありません。全国銀行協会が一覧表を公開しているので、2026年7月31日時点版を開いて集計しました。
| 区分 | 機関数 |
|---|---|
| 一覧に掲載されている金融機関 | 923 |
| うち最終振出期限を公表している | 527 |
| 期限の記載が空欄 | 396 |
| 公表分のうち「2026年9月30日」 | 442(公表分の約84%) |
| 公表分のうち9月30日以外 | 85 |
9月30日以外の85機関は、幅が広いです。
| 例 | |
|---|---|
| すでに経過している | 2026年3月31日(東京スター銀行)、2026年4月30日(香港上海銀行) |
| 9月30日より後 | 2026年10月31日、11月30日、12月30日など |
| もっとも遅い | 2027年3月31日(三井住友信託銀行、飯能信用金庫 ほか) |
つまり、自分の銀行と取引先の銀行で期限が違うことがあります。「うちの銀行はまだ大丈夫」も「もう終わっている」も、どちらもあり得ます。
396機関は空欄でしたが、これが「期限を設定していない」のか「まだ公表していない」のかは一覧からは読み取れません。全銀協自身も、一覧は各金融機関が公表した情報が即座に反映されるものではないと注記しています。
間違えやすいところ
① 「9月30日で手形が無効になる」ではない
最終振出期限は振り出す(発行する)ことの期限です。それ以前に適法に振り出された手形の支払期日が消えるわけではありません。
全銀協も2027年4月1日について「手形・小切手が使用できなくなるものではありません」と明記しています。ただし同じ注記の後半で、2027年4月1日からは電子交換所を介さない決済となるため各金融機関で郵送等による相対決済が必要になり、金融機関の判断により取扱い可否等が変更となる可能性があるとも書いています。
制度上は残る。実務上は各行の判断次第。ここが実際のところです。
② 資金化できずに直接困るのは、受け取った側
全銀協のQ&Aはこう書いています。最終振出期限を設定した金融機関では「基本的に当該最終期限以降に振出された手形・小切手による当座勘定からの支払ができません。このため、当該手形・小切手をお受け取りになられた事業者さまにおいては、資金化できない場合があります」。
一方で振り出した側は、取適法上の禁止行為に当たりうるという別のリスクを負います。困り方が違うだけで、どちらにも問題が生じます。
③ 「他行を支払地とする手形の預金入金扱いの停止」も起きうる
公正取引委員会・中小企業庁が金融機関宛てに出した文書は、今後想定される変更として「最終振出期限の到来や、他の金融機関を支払地とする手形・小切手の預金入金扱いの停止など、事業者に提供するサービスに重要な変更が生じることが想定される」と書いています。
自分の銀行が受け付けてくれるかは、振出銀行がどこかにも左右されます。
④ 2027年3月31日より前に「取立の受付」が閉まることがある
全銀協のQ&Aは、多くの金融機関が2027年3月を待たず前倒しで取扱いを縮小しているとして、具体例に「手形帳・小切手帳の発行終了や2027年4月以降を期日とする手形等の代金取立受付の終了等」を挙げています。
交換廃止日ぎりぎりまで使える前提で予定を組むのは危険です。
⑤ 手形をやめて「期日現金払い」にすると、それ自体が支払遅延になりうる
取適法の運用基準は、違反行為事例としてこう挙げています。
手形払から期日現金払に変更することによる支払遅延 — 手形払に係る経費の削減等を図るため、代金を従来の手形払の満期相当日に現金で支払う方法に変更したことから、(中略)役務の提供を受けた日から60日を超えて代金を支払っていた。
手形をやめても、支払日が従来の満期日のままなら60日を超えて違反になります。
⑥ 電子記録債権(でんさい)に替えても、60日を超えれば禁止
条文は手形だけを禁じているのではありません。取適法第5条第1項第2号は「手形を交付すること並びに金銭及び手形以外の支払手段であつて(中略)支払期日までに(中略)金銭と引き換えることが困難であるものを使用すること」を含めて支払遅延としています。
要請文書も「受領日から起算して60日を超える満期を設定した電子記録債権又は一括決済方式を使用する支払は、原則として禁止される」と説明しています。運用基準は、割引を受けないと期日に現金化できないものや、受取手数料を受注側に負担させるものも該当するとしています。
手元にある紙をいつまでに動かすか
期限は2つの層に分かれます。
① もともと法律で決まっている呈示期間(今回の改正とは無関係に昔からあるもの)
| 支払いのために呈示すべき期間 | 根拠 | |
|---|---|---|
| 約束手形(確定日払い等) | 支払をなすべき日またはこれに次ぐ2取引日内 | 手形法第38条第1項(第77条第1項第3号で準用) |
| 小切手(国内で振出・支払) | 10日内(起算日は振出の日付として記載した日) | 小切手法第29条第1項・第4項 |
これは法律上の呈示期間であって、期間経過後の取扱いは本記事では扱いません。
② 今回の廃止スケジュールで乗ってくる期限
| 期限 | 内容 |
|---|---|
| 2027年3月31日 | 電子交換所における手形・小切手の交換が廃止される日 |
| それより前(各行が判断) | 「2027年4月以降を期日とする手形等の代金取立受付の終了」など |
実務上の締切は、遅いほうの2027年3月31日ではなく、早いほうの「取引銀行が取立受付を終える日」です。この日について全国共通の日付は全銀協の一次資料に示されていないため、取引金融機関に確認する必要があります。
支払う側の話:手形払いは2026年1月からすでに禁止
銀行が紙をやめるより先に、法律のほうが手形払いを禁じています。
第五条 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為をしてはならない。
二 製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと(当該製造委託等代金の支払について、手形を交付すること(中略)を含む。)。
支払期日そのものにも上限があります。
第三条 製造委託等代金の支払期日は、(中略)給付を受領した日から起算して、六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
この禁止は「令和8年1月1日以後の発注に係る代金の支払」に及びます。起算点が「支払日」ではなく「発注日」である点に注意してください。
適用範囲
取適法が適用されるかは、取引の種類と当事者の規模で決まります。
| 取引の種類 | 発注側 | 受注側 |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託、政令で定める情報成果物(プログラム)の作成委託、政令で定める役務(運送・倉庫保管・情報処理)の提供委託 | 資本金3億円超 | 個人 または 資本金3億円以下 |
| 同上 | 資本金1000万円超〜3億円以下 | 個人 または 資本金1000万円以下 |
| それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託(デザイン、映像、記事執筆、コンサルティング等) | 資本金5000万円超 | 個人 または 資本金5000万円以下 |
| 同上 | 資本金1000万円超〜5000万円以下 | 個人 または 資本金1000万円以下 |
| 製造委託等(従業員基準・2026年1月新設) | 従業員300人超 | 従業員300人以下の個人・法人 |
| 情報成果物・役務(従業員基準・同上) | 従業員100人超 | 従業員100人以下の個人・法人 |
受注側の欄にはすべて「個人」が入っています。取適法は、個人事業主を資本金なしの側として保護の対象に置いている、という立て付けです。
出典:e-Gov 中小受託取引適正化法 / 公正取引委員会 運用基準
2027年4月1日から、規模要件の外側も塞がれる
取適法には資本金・従業員数の線引きがあるので、条件から外れる取引は網にかかりません。そこを塞ぐのが支払告示です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法 |
| 告示番号 | 令和8年公正取引委員会告示第3号(令和8年6月18日指定) |
| 施行日 | 2027年4月1日 |
禁止されるのは「正当な理由がある場合を除き、(中略)給付を受領した日から起算して60日の期間経過後なお支払わないこと」。代金は「現金又はこれに準ずる支払手段」で支払う必要があり、現金に準ずるものとして電子記録債権、ファクタリング等が挙げられています。
| 取適法 | 支払告示 | |
|---|---|---|
| 施行 | 2026年1月1日 | 2027年4月1日 |
| 対象取引 | 製造委託等 | 同じく製造委託等(広がるのは当事者の規模要件の側だけ) |
| 当事者 | 資本金・従業員数の要件を満たす者 | 要件を満たさない者も対象 |
| 適用除外 | — | 「取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる者」は除かれる |
| 両方に違反する場合 | 原則として取適法またはフリーランス法を優先して適用 | — |
対象となる取引の種類は広がりません。広がるのは当事者の規模の側だけ、という点は押さえておいてください。
なお「正当な理由がある場合」も定められており、受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合や、あらかじめ合意により合理的な理由に基づき支払条件を定めた場合などが挙げられています。60日超が一律に違法、という単純な話ではありません。
やること
① 自分の取引銀行の最終振出期限を調べる
全銀協の一覧に載っています。9月30日だと思い込まないでください。空欄の機関も396あります。
② 手形を受け取っている取引があるか確認する
あるなら、振出銀行の期限も見てください。自分の銀行だけでは足りません。
③ 手元に紙があるなら、取立受付の終了日を銀行に聞く
2027年3月31日ではなく、それより早い日が実際の締切になります。
④ 原文を確認する
まとめ
- 最終振出期限は金融機関ごとに違う。公表527機関のうち9月30日は442、85機関は別の日
- もっとも遅いのは2027年3月31日、すでに経過している機関もある
- 最終振出期限は振り出す期限。既存の手形が無効になるわけではない
- 電子交換所の交換廃止は2027年3月31日。ただし各行が前倒しで取立受付を閉じることがある
- 手形払いは2026年1月1日以後の発注分から取適法で禁止(起算点は発注日)
- 期日現金払いに変えただけでは支払遅延になりうる。でんさいも60日超なら禁止
- 2027年4月1日から支払告示で規模要件の外側も対象になる