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アルバイト1人でも対象。10月1日からのカスハラ対策義務化に、中小企業の猶予はありません

2026-09-05
カスハラ労働施策総合推進法ハラスメント経営者

従業員が1人でもいますか。アルバイトでも、週2日でも、雇用契約を結んでいれば法律上の「労働者」です。

2026年10月1日から、その1人のためにカスタマーハラスメント対策を講じることが事業主の義務になります。

パワハラが義務化されたときには「中小企業は後から」という猶予期間がありました。今回、それがありません。

いつ・何を根拠に変わるのか

事項内容
改正法令和7年法律第63号(2025年6月11日公布)
義務の条文労働施策総合推進法 第33条第1項
施行日2026年10月1日
指針令和8年厚生労働省告示第51号

条文はこう書かれています。

事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(中略)の言動であつて(中略)社会通念上許容される範囲を超えたもの(中略)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう(中略)雇用管理上必要な措置を講じなければならない

「講じるよう努めなければならない」ではありません。「講じなければならない」です。ここが努力義務との分かれ目です。

出典:e-Gov 労働施策総合推進法(2026年10月1日施行版) / 厚生労働省 リーフレット

うちは対象か

第33条第1項の主語は「事業主」、守る相手は「その雇用する労働者」です。ここから読めます。

状況措置義務
正社員がいる対象
パート・アルバイト・契約社員だけ対象(指針が「非正規雇用労働者を含む労働者の全て」と明記)
派遣スタッフを受け入れている(自社の雇用が0人でも)対象(労働者派遣法第47条の4で派遣先も事業主とみなされる)
従業員0人のひとり社長・個人事業主措置義務は生じないと読める
自分が他社の従業員にカスハラをしないこと事業主本人にも努力義務(第34条第3項)

範囲の広さにも注意が必要です。

「店舗がないから」「BtoBだから」で外れる話ではありません。

パワハラのときにあった猶予は、今回ない

パワハラ(2020年)カスハラ(2026年)
改正法令和元年法律第24号令和7年法律第63号
中小事業主の猶予あり(附則第3条で「講じなければ」を「努めなければ」と読み替え)なし
猶予の期間令和2年6月1日〜令和4年3月31日の約1年10か月

厚生労働省が公表している改正法の条文(附則第1条〜第16条)を通して確認しても、中小事業主の読み替え規定はありません。関係政令の整備を定めた令和8年政令第181号も条番号の整備だけで、経過措置は置かれていません。

指針の全文にも「中小企業」「企業規模」「猶予」の語は出てきません。

10月1日から、規模に関係なく同じ土俵というのが今回の姿です。

義務の中身は10項目

#講じなければならない措置
カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する方針を明確化し、周知する
カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する
相談窓口をあらかじめ定め、周知する
窓口担当者が適切に対応できるようにする
事実関係を迅速かつ正確に確認する
被害者への配慮の措置を適正に行う
再発防止に向けた措置を講ずる
特に悪質なものへの対処方針をあらかじめ定め、体制を整備する
相談者等のプライバシーを保護する
相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨を定め、周知する

太字にした部分は、パワハラ・セクハラの措置義務にはないカスハラ固有の内容です。特に⑧は項目ごと新しいものです。

指針は⑧の対処例として、警察への通報、警告文の発出、法令の制限内での販売・サービス提供の停止、店舗等への出入り禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てを挙げています。

従業員1人の店ではどうするのか

厚生労働省のQ&A(問15)は、従業員1名の店舗について、退店を求めること・電話を切ること・警察への通報・本社への情報共有などを、あらかじめ対処の内容として定めておくことが考えられる、としています。

相談窓口(③)も、外部の機関に委託する方法が指針に明記されています。他のハラスメントの窓口と一体で設置しても構いません。

出典:厚生労働省 指針・パンフレット等

罰金はありません。あるのは「公表」です

ここは誤解が多いところです。労働施策総合推進法の罰則規定は第49条・第50条・第51条の3つですが、そのいずれにも第33条違反は入っていません。

ただし、罰則がない=無風ではありません。

起きること結果
10項目の措置を講じていない措置義務違反そのものを罰する規定はない
行政が必要と認めた厚生労働大臣が助言・指導・勧告をすることができる(第42条第1項)
勧告に従わなかったその旨を公表することができる(第42条第2項)
求められた報告をしない・虚偽の報告をした20万円以下の過料(第51条)

効くのは罰金ではなく「社名が出る」ほうです。取引先や採用に響くのはこちらだと考えて動くのが実際的です。

間違えやすいところ

クレームを全部カスハラ扱いにする

指針は「顧客等からの苦情の全てが該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れ」だとしています。

障害のある方が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨を表明すること自体も、カスハラではありません。指針は消費者の権利、障害者差別解消法の合理的配慮の提供義務、各業法によるサービス提供義務への留意も求めています。

過剰な線引きは、別の法律に触れる側の問題になります。

「微妙だから」と相談を受け付けない

指針は、現実に生じている場合だけでなく「発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること」と求めています。

事実が確認できなかったから何もしない

指針は再発防止について「生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること」としています。

原因が全部お客側だと決めてかかる

指針は「事業主又は労働者の側の不適切な対応が当該言動の原因や背景となっている場合もあることにも留意する必要がある」と書いています。

とりあえず全部録音・録画しておく

指針は録音・録画を対処例に挙げていますが、同じ箇所で個人情報保護法等を遵守し顧客等の個人情報を適切に取り扱うことを求めています。

相談した従業員を不利に扱う

第33条第2項は「解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定めます。努力義務ではなく禁止で、しかも公表の対象に明記されています。

派遣先が、派遣スタッフが相談したことを理由に派遣の受入れを拒むことも、不利益取扱いにあたるとされています。

やること

① 自分が対象かを確かめる

雇用契約を結んでいる人が1人でもいるか。派遣スタッフを受け入れていないか。ここだけです。

② 10項目のうち、いま無いものを数える

方針・対処内容・相談窓口・悪質事案の対処方針。まずこの4つが文書になっているかを見てください。

③ 原文を読む

まとめ

この記事は制度の一般的な説明です。個別の判断については税理士・社会保険労務士など有資格の専門家にご相談ください。